2020年09月30日

火と金属と鍛冶、光と水晶

<火>

あるイヌイットの女性は、火の玉のような流れ星に打たれ、炎が体の中に入るヴィジョンを得て、シャーマンとしての力を得ました。
このように、シャーマンは「内的な火」を持っているとされます。
おそらく、トランス状態に入ることは、「内的な火」のコントロールと関係していると考えられているのでしょう。

「火」は霊的エネルギー、力そのものです。
また、「火」によって燃やされないことが物質的存在ではなく魂的存在であることの証明であると考えられています。
ですから、「火」は浄化をもたらす存在でもあるのです。


<鍛冶と金属>

そのような理由から、火をコントロールする「鍛冶」はシャーマンの兄弟的存在と考えられることが多いのです。
「太陽」、「鉄」、「火」といった「鍛冶」に象徴的に関連づけられている要素が、シャーマンにも関係づけられています。

ですから、太陽の使いであってシャーマンの守護霊である「鷲」が、「鉄」の羽根を持っていたりします。

また、シャーマンにイニシエーション時の精霊が、鍛冶の性質を持っていて、鉄製の機具でシャーマンを解体することもあります。
あるいは、八つ裂きにさした体を、煮立った大釜鍋の中に入れて、それを溶かして金属し、それを鍛冶屋のようにして金属のシャーマンの体を組み立てることもあります。

また、シャーマンの力は金属で象徴されるため、シャーマンは金属の飾りをたくさん身につけています。

このように司祭としてのシャーマンが鍛冶的性質を持つことは、秘儀宗教にまで受け継がれています。
また、錬金術とも関係しているでしょう。


<光>

「火」とともに、「光」もシャーマンにとって重要な要素です。

「光」は暗闇と地下世界での視力、つまりシャーマンのトランス状態での「霊視」能力を支える力の象徴です。
多くのシャーマンは完全なシャーマンとなる途中で、強烈な「光」の体験を経験して「霊視」能力を得ます。

トランス状態のシャーマンは頭から光(オーラ)を放っていて、同じトランス状態のシャーマンはこれを見ることができると言います。
岩壁や洞窟の絵画でも、シャーマンの頭からは光を発している姿で描かれます。


<水晶>

その「光」を貯めた「パワー・オブジェクト」が「水晶」とされます。
「水晶」は、「光を凝縮した物」、「精液の結晶」、「天の霊の涙」などであると考えられていて、太陽や天上界とも関係づけられています。

そのため、イニシエーションの時に、シャーマンの体に埋め込まれることもあります。
また、シャーマンになる者は、必ず、自分の特別な「水晶」を所有しています。

「パワー・オブジェクト」は、何からの力をもった呪物で、一般に、シャーマンが霊視する魂の世界では、「援助霊(スピリット・ヘルパー)」として、物質の世界とは別の姿をしています。
ですが、「水晶」だけは、姿が変わらないとされます。

オーストラリアのアボリジニーでは、「水晶」は至高神・最高の男性原理の象徴です。
それは、最高の女性原理である「虹(虹蛇)」を生み出します。
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2020年09月28日

イニシエーションの飛翔

シャーマンになるためのイニシエーション(通過儀礼)は、数日から長期に渡ることが一般的です。

本質的なイニシエーションは、トランスや夢などのヴィジョンの中、霊的な世界で行われます。
その時に、天上世界への「上昇(飛翔)」、地下世界への「下降」、身体の「解体と再生」の3つが必須の体験です。

天上世界と地下世界への旅は、それぞれの世界を知り、そこにいる霊的存在を知り、知己を得ることが目的です。
シャーマンになることを決めた「精霊」や「先代シャーマン」が「守護霊」に引き合わせてくれたり、彼らのいずれかが霊的な世界を案内し、シャーマンにとって必要な術を教えてくれます。


必ずしも順番は決まっていませんが、まず地下世界へとトリップします。

シャーマン候補者は、地下世界へ通じる穴から地下世界に降ります。
その前後で、険しい山を越えたり、森を抜け、蛇や怪物などの障害を克服して進みます。

地下世界では、川に架かった細い橋を渡って進みます。
橋の上には魂を食う怪物がいたり、橋の下には先に死んだシャーマンの骨が落ちていたりします。

あるいは、苦悶する死者で満たされた川や海を舟で渡ったりします。

そして、地下世界の「精霊(怪物)」のもとで、体を解体され、再度組み立てられ、新たにシャーマンの能力を持った存在として再生する体験をします。
これによって彼は、病気の治療の能力、知識を得ます。

*この解体・再生のヴィジョンについては、次のページを参照ください。

また、シャーマンは、「死者の国」の場所や行き方、「死者の国の王」などを知ります。

そして、シャーマンは、鳥(パワー・アニマル、補助霊の鳥)に乗るなどして地上へ帰ってきます。


次に、シャーマンは天上世界に昇ります。
ですが、高い層の天上世界ほど、簡単には行けません。

S19.JPG
*エスキモーのシャーマンが守護霊達と共に飛翔する絵(シャーマン)

シャーマンは、例えば、「世界樹(世界柱)」を昇って、北極星のすぐ横にある天の穴からその上の天上世界に上がります。

そして、彼は天上の様々な霊的存在と交流して、太陽や月にも行きます。
太陽は多くの場合、「守護霊」的な存在であるか、その天の至高神です。

そして、シャーマンは太陽の使いである鷲に乗ったり、自分自身が鷲に変身したりして、飛翔します。
ですが、飛翔は帰り道を見失うことにつながるので注意が必要です。


このように、シャーマンはトリップによって、宇宙の構造や、天上の神々、死者の世界、動物の主の居所などを把握します。
そして、それらの霊的存在達とコミュニケーションを取って関係を構築します。
そのための飛翔は、シャーマンとしての仕事を行うための必須の体験です。


このシャーマンのイニシエーションにおける飛翔に似た体験は、後世の秘儀宗教や、ユダヤのメルカーバー神秘主義、ゾロアスターやムハンマドの天界の旅などにも見ることができます。
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2020年09月27日

召命とシャーマン病

伝統的なシャーマニズムの社会では、シャーマンは自ら望んでなるものでもなく、自らの力でなれるものではありません。
確かに、世襲や、先代シャーマンによる選別、自らの希望によってなど、様々な形でシャーマンになる者が決められることはあります。
ですが、最も本質的なのは、霊的存在による選別です。

本来的なシャーマンは、通常、精霊達が次のシャーマンを決めて、それを先代のシャーマンに告げます。
そして、先代のシャーマンが新入りのシャーマンを仕込むのです。
世襲で選ばれる場合も、長子相続ではなく、精霊が選ぶこと、つまり、「召命」が条件となります。

この教育は現実世界だけでなく、先代シャーマンや精霊達によって、夢やトランス状態の霊的ヴィジョンの中でも行われます。
シャーマンの本質的な教育は、霊魂の世界でしか行えないのです。

ですが、先代シャーマンが生きているうちにシャーマンの技術を伝えられるとは限りません。
こういった場合、先代シャーマンや先祖のシャーマンが魂の世界からヴィジョンを通じて教育を行なうのです。
偉大なシャーマンは魂の世界に留まり続けて、再生することがないと考えられています。
こういった偉大な先祖シャーマンが教えるわけです。


シベリア、アルタイのシャーマニズムの教えを受けたオルガ・カリティディーによれば、本当のシャーマンは「世襲」されるものです。
ですが、それは父が子を選んで教えるといった地上的な「世襲」ではありません。

代々のシャーマンは同じ精霊(守護霊)や先祖シャーマンの導きでシャーマンとなります。
ですが、代々のシャーマンは別の人間だとしても、同じ精霊(守護霊)と同じ力を身につける点で、同一人格のシャーマンになると考えることができるのです。

モンゴル、シベリアのソーラ族の女性の系統のシャーマンの場合、地上の夫とは別に地下の精霊と結婚をします。
そして、この同じ地下の精霊が代々の女性シャーマンと結婚をするのです。


一般に、幼い頃から孤独を好む夢見がちな性格を持っている者が、シャーマンに選ばれる傾向があります。

ですが、シャーマンに興味を持たず、シャーマンになりたくないと思っている者が、「召命」されることも多いのです。
この場合、本人が否定しても、霊的な世界の精霊達、先祖のシャーマン達の強い誘いによって心身が不調になって、しかたなくシャーマンにならざるをえなくなります。

通常、シャーマンになることを受け入れるまで、長い期間に渡って、疾患的な状態を経験します。
これは「シャーマン病」と呼ばれ、幻覚、無気力、夢遊、ヒステリー性発作、けいれん、動物的行動などを伴います。
この状態は、トランスによるヴィジョンを引き起こし、シャーマンとしてのイニシエーションや教育につながります。


精霊や死んだシャーマンの働きかけを、新入りシャーマン自身の無意識の働きであると合理に解釈することもできるでしょう。
シャーマンになることに対する部族からの期待を無意識が感じていたり、自分の性格が一般的な社会に不適応であると無意識で判断していたりして、無意識がシャーマンになる道を選ぶのだと、解釈することもできるわけです。

ですが、生きていた先代シャーマンからの教えを受けずに、知識を持たない者が、ヴィジョンの中からの教育だけで、高度な技術や知識を持つ立派なシャーマンになる場合もあるのが不思議です。
posted by morfo3 at 06:41| Comment(0) | イニシエーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする