このページでは、天地を循環する水の性質から、水神の属性について考え、その表現形態である龍蛇神についてもまとめます。
水神は、三界を循環する存在なので、三界の智恵を持ちます。
その過程で、生物を成長させ、救いながら、自身が死して復活します。
ここには、シャーマンとも共通する側面もあります。
<三界の循環と復活>
水は、大地や海から蒸発して天に昇り、雲となり、雨となって天から地に下降し、山から川、地下水となって海に流れる、というように天地を循環します。
伝統文化の信仰では、水や水に関わる存在は、虹となって上昇したり、月に蓄えられたり、稲妻として下降する、と考えられることもありました。
大地・海→水蒸気(虹)→雲・月→雨(稲妻)→大地(山)→川(地下水)→海
この循環の過程で、水は天空、地上、地下(海)の三界を巡ります。
古代から世界的に、三界を知る存在は智者とされます。
シャーマンもそうです。
つまり、水神は、三界を知る「智恵」の神であり、三界をつなぐ「媒介(伝達)」の神です。
例えば、シュメールの水神エンキは、智恵の神でもあり、人間に情報を伝えて洪水から救いました。
また、水は、地上を流れる過程で、生命を育み、汚れを落とします。
つまり、水神は、「生命の水」、「豊穣」の神であって、「浄化(祓い)」の神です。
例えば、大祓詞で唱えられる瀬織津姫は、祓いの女神、川(水)の女神です。
これは、豊穣のために尽くし、治療という浄化を行う点では、シャーマンと同じです。
このように、水は、天空から地上に下り、生物を助け、地下(冥界)に下り、また、天に上昇します。
これは、「救世主」であり、「死して復活(昇天)する神」です。
キリストとも似ています。
シャーマンのトランスも、擬死再生として捉えられることもあります。
ですが、水神には、大雨や洪水となるという否定的側面もあります。
中東から西洋にかけての竜(ドラゴン)には、こういう破壊神、混沌神としての側面が強くあります。
循環する水としての水神は、雨神、川神、海神、井戸水神、泉の神、湖の神、水分神(みくまりのかみ)と関係が深く、これらは広義の循環する水神です。
また、嵐神、雷神、月神も、循環する水神と関連する神です。
水神には、「原初の水」、つまり、原初存在としての側面があります。
シュメールのナンム、エジプトのヌン、インド・イランのヴァルナ(水天)などです。
ですが、これは、循環する存在としての水神とは別の属性であり、別の神と考えることもできます。
海神や井戸水神などは、こちらの水神の一種と考えることもできます。
<循環する水神としてのスサノオ>
記紀神話のスサノオ(須佐之男命、素戔嗚尊)には、多様な属性がありますが、循環する水神としての側面が強くあります。
この側面から、つまり、循環する水の性質が反映している可能性がある部分を、列記して解釈してみましょう。
スサノオはイザナギが鼻を洗った時に生まれました。
これは、目を洗って生まれたアマテラス=太陽、ツクヨミ=月に対して、水(鼻水)、及び、風(鼻息)を表します。
スサノオは海原を治めるように言われますが、母のもとに行きたいと、青山が枯山になって河と海が乾くほどに泣いて、その後、高天原に上ります。
これは、海の水などが蒸発して乾季(冬)になることを表します。
泣き枯らすというのは不思議な表現ですが、天にいる月神や雷神が泣くと降雨となりますが、海や地上にいる神が泣くと水が水蒸気となって蒸発するので乾くのでしょう。
スサノオは、高天原で田とアマテラスに対する暴力的行為を行って、天の岩屋戸にこもらせてしまいます。
これは、大雨が田を壊し、雲が太陽を隠すこと、あるいは、冬の乾季には水蒸気が天に昇ったままで太陽を弱られると考えられたことを表します。
この罪によって、スサノオは、髪を抜かれ、手足の爪を抜かれて追放され、出雲に降ります。
これは、雨季(梅雨)に恵みの雨となって地上に下ることを表します。
「八雲立つ」出雲は、水が豊かに循環する地を表します。
スサノオは、出雲でヤマタノオロチを退治してクシイナダヒメと結婚します。
これは、氾濫して洪水となる川が治水され、田に農水となって流れ込むことを表します。
最後に、スサノオは根の国に行きます。
これは、水が地下に浸透して、地下水となることを表します。
このように、スサノヲには、恵みの水としての豊穣神、救いの神という側面と、大雨、洪水、乾季としての不毛神、破壊神、贖いの神としての側面があります。
<蛇神と龍・竜>
龍(竜)や蛇神は、水神の表現形態でもあります。
ですが、龍神や蛇神は、水神とは異なる属性も持っています。
蛇は、蛇行することなどから水、液体、流体の象徴です。
蛇神は、水神の多くの属性を持ちます。
そのため、蛇神は、天地を循環する存在、地下に潜る存在です。
蛇は首をもたげて虹となって天に上昇し、稲妻となって地上に降ります。
そして、とぐろを巻いては山となり、蛇行して川となります。
水の循環は、世界樹を昇降する蛇としても表現されます。
水の循環は再生(不死)の属性を含みますが、蛇神は、脱皮や冬眠から目覚めるという性質からも、再生の象徴です。
ちなみに、蛇は、天地の昇降だけではなく、身体も昇降します。
インドのタントリズムや、オーストラリア原住民のアボリジニ、中米のマヤでは、下腹部に眠り、身体の中枢を昇降するエネルギー(クンダリニー)を蛇として表現します。
蛇神には、「原初の水」と同様、原初存在としての属性もあります。
尾を噛む円環状の蛇(ウロボロス)は、原初、永遠、円環の象徴です。
また、渦巻状の蛇は、混沌、大地、無意識の象徴です。
ウロボロスは、錬金術が使う象徴でもあり、神智学のマークにもあります。
また、ミトラス教の無限時間神ズルワン神の体には、蛇が巻き付いています。
蛇は、男根の象徴でもあります。
そのため、女性的な存在の創造性を活性化する存在の象徴です。
農耕文化においては、それは天神の属性であり、豊穣の象徴です。
龍は、蛇(蛇神)の延長上の存在であり、国家レベルの宗教でその姿が拡大されたものでしょう。
龍は、大河の氾濫とその国家的統制(治水・灌漑)に関係します。
シュメール以来の中東から西洋では、洪水などの否定的側面が竜(ドラゴン)となり、混沌神、破壊神となりました。
例えば、バビロニアのティアマトなどです。
一方、中国では、治水という肯定的側面から、龍が王権の象徴となりました。
他地域でも、イギリス(ウェールズ)のペンドラゴンのように、王権の象徴となることがあります。
中国の影響で、東洋では、龍は破壊神という属性と共に創造神・豊穣神としての側面を強く持ちます。
ですが、コブラか大蛇が存在する、インド、エジプト、中南米では、蛇の龍化は見られません。
日本では、中国の龍と、中国で龍化したインドの蛇神ナーガが流入しましたが、王権と結びつくことはなく、日本古来のオカミ(龗神)やミズハ(罔象女神)などの水神と結びついたようです。
<智恵の象徴としての蛇>
蛇も、水神と同様に智恵の象徴という属性があります。
蛇の智恵は、本来、地下に潜る、つまり、無意識の智恵であり、復活・創造の智恵であり、それは「生命の水」と同様に不死の智恵です。
旧約聖書でも、エデンの蛇は、人間に智恵(知恵の樹の実)をもたらしますが、これは合理的な知恵であって、不死の智恵(生命の樹の実)とは異なります。
異端のグノーシス主義のオフィス派は、蛇が智恵をもたらす存在として信仰します。
そして、イエスを蛇と一体視し、生命の樹の実をたべさせるべく現れたと考えます。
ギリシャ神話では、竜はリンゴ(生命の樹の実)の守護者です。
また、シャーマン神であるヘルメスが持つ「カドゥケウス(ケーリュケイオン)の杖」は、二匹の蛇がからみあい、翼のついた杖で、伝令や商業の象徴とされますが、本来的意味からすれば、智恵の象徴でもあります。
医神のアスクレピオスが持つ「アスクレピオスの杖」は、一匹の蛇がからむ杖で、医学(ヒーリングの智恵)の象徴です。
近代の高等魔術結社ゴールデンドーンでは、カバラの象徴体系「生命の樹」を昇ることを「智恵の蛇」で表現します。
2020年11月27日
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