「シャーマニズム」という言葉は、狭義では、中央~北アジアのアルタイやシベリア地方の、部族社会の伝統的な宗教の形を表します。
ですが、他の地域、特に、北ヨーロッパや東アジア、南北アメリカなどを含めて、世界的にシャーマニズムの要素があります。
シャーマニズムは、狩猟を行っていた後期旧石器時代に生まれた、世界的に普遍的な宗教形態だったのではないでしょうか。
その後に、農耕文化、牧畜文化などが発生しても、継承され、変形されて、生き延びてきました。
ですから、「シャーマニズム」は、広義には、有史以前から現代にいたるまで、世界的に存在する普遍性の高い宗教的現象の形だと言うことができます。
世界の各部族が持つ文化の形が多様なのに比べて、それぞれのシャーマニズムの形には、驚くほどの共通性があります。
典型的なシャーマニズムの文化を持つ部族社会には、一つの共同体に最低一人の「シャーマン」がいます。
そして、「シャーマン」が、共同体と霊的世界、霊的存在との間の様々なコミュニケーションを担う中心的存在となります。
部族によっては、秘密結社のリーダー達も、部分的にその役目を担いますが。
*シベリアのシャーマンの絵(シャーマン)
<脱魂型シャーマニズムと憑霊型シャーマニズム>
一般に、シャーマンは「トランス」状態(変性意識状態)になって霊的存在とコミュニケーションを取ります。
この「トランス」には2種類があります。
「脱魂(エクスタシー)」と「憑霊(ポゼッション)」です。
「脱魂」は、自身の霊魂を霊的世界に「飛翔」させることです。
「憑霊」は、が霊的存在を「憑依」させることです。
狭義には、「脱魂」を行う者のみを「シャーマン」と呼び、「憑霊」を行う者は「霊媒(メディウム)」と呼び分ける場合もあります。
一般に、狩猟・遊牧文化では、「脱魂型」のシャーマンが多く、たいていは、男性シャーマンです。
それに対して、農耕文化では、「憑霊型」のシャーマンが多く、たいていは、女性シャーマンです。
それは、狩猟・漁撈文化の男性シャーマンは、霊的世界に行って「動物の女主」を呼ばれる女神との関係を築く必要があるからです。
ただ、牧畜・遊牧文化では、女神の存在は希薄になり、代わって天上の男神が重視されるようになります。
そして、農耕文化の女性シャーマンは、太陽神や嵐神といった恵みをもたらす男性神(の霊力)を田畑に呼ぶ必要があるからです。
伝統文化では、男性は、狩猟や葬儀などの「死」に関わる仕事します。
これは、この世からあの世へ霊魂を移動させることであり、「脱魂」も同じです。
一方、女性は出産や農耕・採集などの「生」に関わる仕事をします。
(本格的な農耕社会は男性も農耕の仕事をしますが、両方行っている社会ではこのような分担が一般的です。
また、草木を伐採して農地を作る作業は、「死」に関わるので男性が行います。)
これは、あの世からこの世へ霊魂を移動させることであり、「憑霊」も同じです。
宗教学者のエリアーデは「脱魂(エクスタシー)」を、シャーマニズの基本原理として重視しました。
人格の成長という観点から考えると、意識の分裂・多人格化を導く可能性のある「憑霊」よりも、意識の拡大や統合を導く傾向の強い「脱魂」の方が興味深いと思えます。
そのため、当ブログでは、シャーマニズムの原初的形態でもある「脱魂」型のシャーマニズムを中心に扱います。
<ネオ・シャーマニズムと高等シャーマニズム>
一般の部族社会のシャーマンは、その部族特有の世界観を共有して、その世界観や部族の社会構造を動かせないものだと考えます。
そして、その中で、部族全体の安定のために仕事を行います。
当ブログでは、この部族社会に根ざした伝統的なシャーマニズムを「部族シャーマニズム」と呼びます。
それに対して、1960年代以降に、アメリカのニュー・エイジ運動とも連動しながら生まれた、新しいシャーマニズムの運動は、総称して「ネオ・シャーマニズム」と呼ばれます。
ですが、「ネオ・シャーマニズム」の中には、伝統的なシャーマニズムを継承している部分もあるので、厳密に分けることはできません。
「ネオ・シャーマニズム」は、「部族的シャーマニズム」と違って、主に、個人の求道や病気治療を目的とします。
「ネオ・シャーマニズム」の中には、特定の社会の世界観を、幻想として否定するような思想もあります。
つまり、仏教の「空」思想ように、世界観を相対化し、それらを超えることを目指します。
当ブログでは、こういった思想傾向を持つものを「高等シャーマニズム」と呼びます。
(「高等」という言葉には良い印象はありませんが、「高等魔術」という言葉からとってきました。)
「空」の認識にこだわらず、高い霊的成長(不死性)を目指すようなシャーマニズムも含めて、「高等シャーマニズム」と呼んでもよいでしょう。
「高等シャーマニズム」が、歴史的にいつ生まれたかは分かりません。
「フナ」や「トルテック」のように、「高等シャーマニズム」に当たる「ネオ・シャーマニズム」の中には、伝統的なシャーマニズムを継承していると主張するものがありますが、その客観的な証拠はありません。
ですが、国家レベルの文化を経ながら、そこから離れ、より普遍的な方向に発展したシャーマニズムの伝統があったとしてもおかしくはありません。
そのような宗教運動が存在したことは認められています。
また、高い霊的成長をほのめかす伝統は、古代中央アメリカ(マヤ、トルテカ、テオティワカン)のシャーマン的文化にも存在します。
*「ネオ・シャーマニズム」や「高等シャーマニズム」については、別のページをお読みください。
>「高等シャーマニズムとは」
>「 アーバン高等シャーマニズムの思想と実践」
2020年12月17日
シャーマンの仕事
伝統的なシャーマンは、祭司、神秘家、霊媒、呪術者、呪医、占い師など、多くの顔を持ちます。
ですが、一言で言えば、シャーマンは霊魂の専門家と言うことができます。
シャーマンは、地上、地下、天上の3つの世界を移動し、精霊や霊魂と交流し、それらを操作します。
重要なのは、シャーマンは個人的な求道を行なう神秘家ではなくて、部族のために尽くす存在だということです。
シャーマンは様々な精霊や魂をコントロールすることで、部族のメンバーを含めて、部族全体の健康や安全、調和、豊穣を守る存在です。
*北米ブラックフット族の呪医(シャーマンの世界)
シャーマンの仕事は、抽象的に表現すれば、天上や地下と地上との間に、言葉と魂を運ぶことだと言えます。
つまり、あの世とこの世、神霊の世界と共同体の間の、魂(生命)の循環と、メッセージ(意志)の伝達・コミュニケーションを正しく行わせることです。
具体的には、以下のようなものです。
1 不猟・不漁・不作や天候の不良などの問題の解決
2 部族のメンバーの精神的、身体的な病、怪我の治療(ヒーリング)
3 人間の死と誕生を助ける
4 霊的世界とのコミュニケーションを担う
5 呪術的な攻撃から共同体のメンバーを守る
1は、神や「動物の主」がいる天上や地下世界に行って、供犠の動・植物の魂を届け、豊穣を懇願したり、不猟の理由を聞き出したりして解決します。
より積極的な行為として、「動物の主」と戦ったり、動・植物の魂を盗んできたりすることもあります。
2は、その理由によって解決法も様々です。
「邪霊」の侵入が原因の一時的な疾患の場合は、これを霊視して、「補助霊」の助けを得ながら、吸い出して、追い祓います。
患者の「守護霊」が離れたことが原因の長期的な疾患や、生命力の低下などの疾患の場合は、天上や地下などの他界に行って探し出し、「守護霊」を連れ戻して患者の体に入れ直します。
患者の魂が彷徨い出て、意識を失うような死の危険もある重度の疾患の場合は、地下世界に行って魂自体を連れ戻します。
悪霊が魂を盗んだ場合はこれと戦います。
3は、まず、死んだ人間の魂に対しては、死んだこと、生者と別れないといけないことを理解させます。
そして、魂が行くべき死者の世界へと道案内します。
赤ん坊が欲しい時には、地下世界の女神や祖神などのところに行って頼んだり、魂を盗んできて女性の胎内に入れたりします。
難産の場合は、うまく出産できるように助けます。
4は、まず、飛翔や憑依によって、あるいは、占いによって、神々や祖霊から神託をもらうことです。
逆に、飛翔して神々などに頼みごとを伝えたり、何らかの知識を得たりすることもあります。
また、供犠とされる動物の魂を天の神に届けます。
5は、敵対する部族の呪術師や黒魔術師からの攻撃を見破って防ぎ、逆に、相手の呪術師や部族のメンバーを攻撃することです。
あるいは、精霊からの攻撃を防ぐこともあります。
これらの場合は、病気治療の場合と同じく、その時々に適した「補助霊」を使います。
ですが、一言で言えば、シャーマンは霊魂の専門家と言うことができます。
シャーマンは、地上、地下、天上の3つの世界を移動し、精霊や霊魂と交流し、それらを操作します。
重要なのは、シャーマンは個人的な求道を行なう神秘家ではなくて、部族のために尽くす存在だということです。
シャーマンは様々な精霊や魂をコントロールすることで、部族のメンバーを含めて、部族全体の健康や安全、調和、豊穣を守る存在です。
*北米ブラックフット族の呪医(シャーマンの世界)
シャーマンの仕事は、抽象的に表現すれば、天上や地下と地上との間に、言葉と魂を運ぶことだと言えます。
つまり、あの世とこの世、神霊の世界と共同体の間の、魂(生命)の循環と、メッセージ(意志)の伝達・コミュニケーションを正しく行わせることです。
具体的には、以下のようなものです。
1 不猟・不漁・不作や天候の不良などの問題の解決
2 部族のメンバーの精神的、身体的な病、怪我の治療(ヒーリング)
3 人間の死と誕生を助ける
4 霊的世界とのコミュニケーションを担う
5 呪術的な攻撃から共同体のメンバーを守る
1は、神や「動物の主」がいる天上や地下世界に行って、供犠の動・植物の魂を届け、豊穣を懇願したり、不猟の理由を聞き出したりして解決します。
より積極的な行為として、「動物の主」と戦ったり、動・植物の魂を盗んできたりすることもあります。
2は、その理由によって解決法も様々です。
「邪霊」の侵入が原因の一時的な疾患の場合は、これを霊視して、「補助霊」の助けを得ながら、吸い出して、追い祓います。
患者の「守護霊」が離れたことが原因の長期的な疾患や、生命力の低下などの疾患の場合は、天上や地下などの他界に行って探し出し、「守護霊」を連れ戻して患者の体に入れ直します。
患者の魂が彷徨い出て、意識を失うような死の危険もある重度の疾患の場合は、地下世界に行って魂自体を連れ戻します。
悪霊が魂を盗んだ場合はこれと戦います。
3は、まず、死んだ人間の魂に対しては、死んだこと、生者と別れないといけないことを理解させます。
そして、魂が行くべき死者の世界へと道案内します。
赤ん坊が欲しい時には、地下世界の女神や祖神などのところに行って頼んだり、魂を盗んできて女性の胎内に入れたりします。
難産の場合は、うまく出産できるように助けます。
4は、まず、飛翔や憑依によって、あるいは、占いによって、神々や祖霊から神託をもらうことです。
逆に、飛翔して神々などに頼みごとを伝えたり、何らかの知識を得たりすることもあります。
また、供犠とされる動物の魂を天の神に届けます。
5は、敵対する部族の呪術師や黒魔術師からの攻撃を見破って防ぎ、逆に、相手の呪術師や部族のメンバーを攻撃することです。
あるいは、精霊からの攻撃を防ぐこともあります。
これらの場合は、病気治療の場合と同じく、その時々に適した「補助霊」を使います。
2020年09月25日
シャーマンのトランス
シャーマンは、神霊の世界と接触するために、「トランス状態(変性意識状態、シャーマン的意識状態)」に入ります。
シャーマンは、「トランス」状態で体験する「非日常的世界」と、日常的意識状態で体験する「日常的世界」を行き来する存在です。
「トランス」には、3種類の方法があります。
・肉体を抜け出て魂や霊の世界に飛翔する「脱魂(エクスター)」
・霊的存在の「憑依(ポゼッション)」
・現実世界にいながらその背後にある魂の世界を視る「霊視(スピリット・ヴィジョン、シャーマン的エンライトメント)」
です。
「夢見」も一種の「脱魂」的トランスです。
*トランス状態で見るシャーマン同士の霊的攻防(シャーマンの世界)
「トランス」に入る方法は、通常、ドラム、もしくはガラガラを連打し、特別な歌(パワー・ソング)を歌って、ダンスを行うことです。
地域によっては、ドラムの代わりに弓を使ったり、幻覚性植物を摂取することがあります。
「パワー・ソング」は、部族に伝わったものか、シャーマン個人が精霊から教えてもらいます。
その歌詞は、「守護霊」などを呼び出したり、シャーマンとしての自分を激励したりする内容が多いようです。
ダンスも「守護霊」を呼び出す手段であって、同時にその力を体現する方法であり、体現していることの表現でもあります。
飛翔は通常、飛行能力のある「守護霊」や「パワー・アニマル」、「補助霊(鳥や馬など)」を呼び出して行います。
シャーマンがこれらの霊的存在と一体化(変身)して飛翔することもよくあります。
これは一種の「憑霊」でもあります。
これらの霊的存在は、異界への道を開いてくれたり、道の途中で敵に出会った時の撃退したくれたりもします。
*エスキモーのシャーマンが守護霊達と共に飛翔する絵(シャーマン)
ドラムの音は、飛翔中の推進力としても働きます。
一般に、シャーマンが「脱魂」の状態に入ると、動けなくなって寝転びますが、自分が寝転んでいることや、周りの状態を音などによって知覚していることが多いようです。
場合によっては、横たわらずに、魂の世界で行っている行為をそのまま地上で行って、回りの者に見せることもあります。
「透視」は通常、夜などに暗闇で行われます。
この時、シャーマンは、物質世界と魂の世界を2重で見ることになるのですが、この2つの世界を混同することはありません。
シャーマンは、「トランス」状態で体験する「非日常的世界」と、日常的意識状態で体験する「日常的世界」を行き来する存在です。
「トランス」には、3種類の方法があります。
・肉体を抜け出て魂や霊の世界に飛翔する「脱魂(エクスター)」
・霊的存在の「憑依(ポゼッション)」
・現実世界にいながらその背後にある魂の世界を視る「霊視(スピリット・ヴィジョン、シャーマン的エンライトメント)」
です。
「夢見」も一種の「脱魂」的トランスです。
*トランス状態で見るシャーマン同士の霊的攻防(シャーマンの世界)
「トランス」に入る方法は、通常、ドラム、もしくはガラガラを連打し、特別な歌(パワー・ソング)を歌って、ダンスを行うことです。
地域によっては、ドラムの代わりに弓を使ったり、幻覚性植物を摂取することがあります。
「パワー・ソング」は、部族に伝わったものか、シャーマン個人が精霊から教えてもらいます。
その歌詞は、「守護霊」などを呼び出したり、シャーマンとしての自分を激励したりする内容が多いようです。
ダンスも「守護霊」を呼び出す手段であって、同時にその力を体現する方法であり、体現していることの表現でもあります。
飛翔は通常、飛行能力のある「守護霊」や「パワー・アニマル」、「補助霊(鳥や馬など)」を呼び出して行います。
シャーマンがこれらの霊的存在と一体化(変身)して飛翔することもよくあります。
これは一種の「憑霊」でもあります。
これらの霊的存在は、異界への道を開いてくれたり、道の途中で敵に出会った時の撃退したくれたりもします。
*エスキモーのシャーマンが守護霊達と共に飛翔する絵(シャーマン)
ドラムの音は、飛翔中の推進力としても働きます。
一般に、シャーマンが「脱魂」の状態に入ると、動けなくなって寝転びますが、自分が寝転んでいることや、周りの状態を音などによって知覚していることが多いようです。
場合によっては、横たわらずに、魂の世界で行っている行為をそのまま地上で行って、回りの者に見せることもあります。
「透視」は通常、夜などに暗闇で行われます。
この時、シャーマンは、物質世界と魂の世界を2重で見ることになるのですが、この2つの世界を混同することはありません。