2020年09月25日

シャーマニズムの宇宙論

アルタイ、シベリアのシャーマニズムを中心に、シャーマニズムの典型的な宇宙論を紹介します。
シャーマニズムの宇宙論は、北欧神話やインド・ペルシャ神話、南中国の神話、中南米の神話などにもはっきりと現れていて、普遍性の高いものです。

ただ、シャーマニズムは、シャーマン個々人の内的な体験をもとにしているので、それぞれのシャーマンが自分の宇宙論と神話を持っているとも言えます。


<三世界>

まず、世界は「天上」、「地上(中間世界)」、「地下(冥界)」の3つの世界からなります。
これは、シャーマニズムの世界観として、かなり普遍的です。

世界の中央には大きな樹(世界樹、宇宙樹)があって、3つの世界をつなげています。
あるいは、大きな山(世界山)があって、その上に「世界樹」が生えていたり、天の中心である北極星にいたる「柱(世界柱)」や「梯子」があったりします。

「世界樹」は、例えば、北欧神話のユグドラシルが有名です。
「世界山」は、インドのメール山(須弥山)や中国の崑崙山が有名です。
「梯子」は、ムハンマドが天国を訪れる時に昇った話が有名です。


「世界樹」は「生命の樹」であったり、「世界樹」の近くに「生命の樹」が生えていたりします。
「世界樹」の頂きには鷲などの鳥がとまり、枝には人間として生まれる予定の魂が宿っていることもありまます。

「世界樹」の下には牛や鹿、そして、蛇などが住んでいて、天の鷲に対して、地上と地下を代表します。
「世界樹」のもとには「生命の泉」があって、そこから「生命の水」が湧き、川が四方に流れ出しています。
「世界山」に住む「世界鳥」としては、ペルシャ神話のシームルグが有名ですし、三足烏も崑崙山に住む聖鳥です。
旧約聖書でイブを誘惑した蛇は、本来、「生命の樹(世界樹)」に住む蛇だったのでしょう。

4つの川は、例えば、旧約聖書のエデンの園からも流れています。
中国の四川省の四川は、崑崙山から流れる4つの川から来ています。

古事記などの日本神話では、「天の御柱」は「世界柱」、「天の香具山」は「世界山」、「天の真名井」はその下にある「生命の泉」だったのでしょう。

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*シベリアのシャーマの衣装(シャーマンの世界)

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*ラップ人の太鼓(シャーマニズムの世界)

<天上世界>

「天上世界」には、「指導霊(ティーチング・スピリット)」や「守護霊(ガーディアン・スピリット)」、英雄などがいて、彼らから助言などを受ける場所です。

天上には、「世界樹」や「世界山」、「世界柱」や梯子を使って昇ります。
北極星のところには穴があって、そこを通って、一番下の天上に昇ります。 あるいは、飛翔して天上に至ることもあります。

天は複数の層(7層とか9層というのが多いようです)から構成されていることもあります。
ひょっとしたら、これは、バビロニアの宇宙論の影響を受けたのかもしれません。

星は、天上の光が漏れてくる天球の穴と考えられることが多いようです。
日本語で星を「筒」と表現するのは、幅のある穴を表現したものでしょう。

天上の神々のパンテオンははっきりと決まっていませんが、いくつか主要なものを紹介しましょう。

アルタイ、シベリアの場合、最高天には白い至高の創造神の「テングリ(天神)」や、あるいは「バイ・ユルゲン(大いなる者)」がいます。
彼らは太陽と結びつきが強く、鷲などの鳥をメッセンジャー、見張りとしています。

また、下方の天には、「7人の息子達」、「9人の娘達」と呼ばれる神々などがいます。
この神々は、プレアデス(すばる)、あるいは、北極星の周りの沈まない星座(子熊座や北斗七星)が関係しているかもしれません。

一番下の天には、「生命の湖」があって、人間の出産を司る「北極星の女神」がいることもあります。


<地下世界>

「地下世界」には、「パワー・アニマル」や「援助霊(スピリット・ヘルパー)」などがいて、挑戦と力の場所です。
地下にもいくつかの層があると考えることもあります。

「地下世界」には、「世界樹」の根もとや洞窟や泉や穴から降りていきます。

地下には、死者のいる「冥界」があります。
「冥界」へは、地下世界で川を渡ったりして、困難な道を行かねばなりません。

「冥界」には冥界王がいます。
各氏族の祖霊、祖神もいますが、祖神は天にいると考えることもあります。
「冥界」では、すべてが逆だと考えることもあります。
つまり、「地上世界」とは季節、昼夜、左右、上下が逆なのです。


<地上世界の異界>

「地上世界」には、様々な異界に行くための拠点となる場所があることもあります。
「天上世界」や「地下世界」の霊を、ここに招くこともあります。
シャーマンが「夢見」を行う場合は、まずここを訪れます。

「地上世界」にも異界があります。
そこは、ボートに乗って行く「島」である場合もあります。
そこには、先輩シャーマンがいることもあります(先輩シャーマンは天上にいる場合もあります)。


また、地上の日常世界と重なって、その背後には魂が本来の姿を現す「魂の世界」があると考えることもできます。

地上にいる植物や鉱物などは、「魂の世界」では、本当の姿を現します。
人間の姿をしている場合もあれば、異なる生き物の姿をしていることもあります。
「援助霊(スピリットヘルパー)」とは、この世界で会話します。
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2020年09月24日

動物の女主

狩猟文化におけるシャーマンの意味を考えてみましょう。
これは、「シャーマンの仕事」のページであげた1の不猟・不漁・不作の問題の解決に当たるものです。 部族にとって最大の問題は、食料の調達です。

獲物となる動物には、その生死を司り、産み出する神的存在である「動物の主(動物の母、父)」がいて、そのもとからやってくると考えられました。
狩猟文化では、この主はたいてい女神であって、地母神や大母的存在です。
多くは山や海中の洞窟などに住んでいます。

シャーマンは部族の代表として、「動物の女主」と交渉をして、獲物を確保する役割を持っているのです。

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*人間の罪のために髪の毛がもつれた海の霊の髪をきれいにするシャーマン(シャーマンの世界)

そのための一つは、供犠の儀礼で獲物の動物の魂を送り返すことです。
正しく動物の魂を「動物の女主」のところに送り返すことは、「動物の女主」が動物を人間のもとに送り出すための絶対条件です。

シャーマン自身の体を、霊的ヴィジョンの中で「動物の女主」に捧げることもあります。
キリストや北欧神話の主神ヴォータンのように、樹(や十字架)に吊り下げられる神が多くの神話に登場しますが、これはシャーマンのこの行為から来ています。
この儀礼においては、シャーマンは人間の代表であると同時に、供犠とされる動物とも同一化されるのです。

動物は、人間が食べることで、この世で死んで、あの世に帰ります。
これと反対に、シャーマンはあの世で自らを犠牲死して、この世に戻ります。

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*タロットの吊るされた男はシャーマン起原

さらに、シャーマンは豹や虎、熊などの肉食獣とも同一化されます。
肉食獣は動物を捕まえて食料とする点では人間と同じで、人間よりすぐれた狩人です。
ですから、狩人の代表でもあるシャーマンは、肉食獣を真似て、それに変身するのです。

肉食獣も「動物の女主」の支配下にあって、主を守護します。
女神の両脇にライオンがいる像が多数見つかっていますが、これは「動物の女主」とそれを主語する肉食獣です。
狛犬の原型もこれでしょう。

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*旧石器時代まで遡れるトルコの地母神像

上に書いたように、シャーマンは自分を犠牲にしたり、つくしたりして祈願するだけではなくて、「動物の女主」と格闘したり命令することもあります。
また、彼女が持っているは動物の魂の入った袋から魂を盗んだりして、動物の魂を手に入れることもあります。
「ジャックと豆の木」のように、他界から何か(金の卵を産む鶏など)を盗んでくる神話や童話はこのシャーマンの行為から来ているのでしょう。


また、シャーマンは「動物の女主」と交わって、豊穣を保証することもあります。
ここには、「狩猟」と「性」の不思議な象徴的なつながりがあります。

つまり、シャーマンが男根をもって「動物の女主」と交わることとが、狩人がヤリをもって動物を狩ることと象徴的に同一化されるのです。
前者は動物をこの世にもたらすこと、後者は動物をあの世に返すことで、正反対ゆえに同じなのです。

このように、「シャーマン=狩人=肉食獣=男性」/「動物の女主=獲物=女性」という二原理の関係であって、「男根=ヤリ」/「生殖=狩り・食事」なのです。

洞窟の儀礼では、洞窟=「動物の女主の子宮」であって、洞窟に入ることは「動物の女主」との性交の象徴です。
シャーマンは牛や豹といった動物の姿に変身して、雌牛や牝豹の姿の「女主」と交わることもあります。
「動物の女主」は、動物の雌とも同一化されるのです。
posted by morfo3 at 06:48| Comment(0) | シャーマニズムの概要 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする