2020年12月17日

解体死とシャーマンとしての再生

シャーマンはイニシエーションの時に、「精霊(怪物)」や「祖霊(先輩シャーマン)」などによって、体のすべての部分を分離、解体された後で、再度、組だ立てられ、再生されることを体験します。

骨、肉、血はバラバラにされ、頭も取り外されます。
そして、体は大鍋に放り込まれて煮られたりします。

この体験は、地下世界で行われることが多く、地下世界への下降(飛翔)トリップの時に行われることもあります。

s4.jpg
*ヤクート族シャーマンのイニシエーション時の解体体験(シャーマンの世界)

この「精霊」的存在は、怪物のような恐ろしい存在であると同時に、知識を授けてくれる教師的存在でもあります。 彼らによって、体の各部位を表す呪術的な言葉を教えられ(言わされ)、様々な病気の原因と治療に関する知識を得ます。
呪術的な言葉は、体の各部位を操作する力を持ちます。

目をくり抜かれて新しい目を入れられたり、水晶を体の中に組み込まれたりして、それによって患者の体を透視したり、精霊を見たりする霊視力を得ることもあります。
それから、耳に指を突っ込まれて、草木や動物、精霊の言葉を聴けるようになることもあります。

シャーマンには普通の人にはない骨や筋肉があって、それを教えられることもあります。
体の各部には、それぞれの働きを象徴する「精霊」的存在がいて、自然界にもそれぞれに対応する場所があると教えられる場合もあります。

その後、新しく体が組み立てられて、シャーマンとなって再生するのです。
このようにして、彼は病気を治療することができるようになって、シャーマンとして復活するのです。
死と再生は、一般の成人儀礼にも共通するテーマです。
新しく成人になる人間は、怪物に呑込まれ、噛み砕かれることで、子供として死に、大人として生まれます。

ですが、シャーマンのイニシエーションにおける解体死と再生の体験は、これらよりはるかに深い意味のある体験です。

s8.jpeg
*ペル―のシャーマンののイニシエーション時の解体体験(シャーマンの世界)

シャーマンは「動物の主」への供犠として自分の身体を捧げることもありますが、このことや、シャーマンの解体のヴィジョンは、チベット密教の「チュー」の修行へも受け継がれています。

ちなみに、現代の、宇宙人にさらわれて、人体実験されるという現代の神話的体験も、このシャーマンの解体のイニシエーションが原型となっているのでしょうが、本質は失われています。
posted by morfo3 at 05:12| Comment(0) | イニシエーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年10月16日

内部閃光と唸り声

シャーマンがトランス状態に入る時、あるいは、入った時に、典型的に現れる言葉やイメージ以前の生理的な「幻視」と「幻聴」があります。
これらは、「魂の世界への入口」、「変身への入口」だとも考えられています。
幻覚植物を摂取した場合にもこれらが現れます。

幻視は、「内部閃光」などと称される、幾何学的な図形などです。
世界中の石器時代の洞窟壁画やペトログリフには、そのような図形が多数、描かれています。

IMG_3260.JPG
*トゥカノ族の描いた内部閃光のパタン(神の発明)

ですが、普遍的な生理的な「内部閃光」のパタンと、各地それぞれで見られる絵記号、彫刻記号は必ずしも一致しません。

ハインリヒ・クルーヴァーは、「内部閃光」の基本パタンを「格子」、「クモの巣」、「トンネル」、「螺旋」の4つとしました。
また、デヴィッド・ルイス=ウィリアムズ&ドウソンは、「内部閃光」と洞窟壁画、ペトログラフを研究して、共通する基本パタンを「格子」、「平行線」、「ドット」、「ジグザグ」、「巣状曲線」、「細かい網の目」の6つとしました。

「内部閃光」は普遍的だとしても、それをシャーマンが認識して象徴的な記号として解釈すると、部族的な違いが生まれます。

IMG_3261.JPG
*デヴィッド・ルイス=ウィリアムズ&ドウソンによる6パタン(洞窟へ)

ウィリアムズ&ドウソンが言う「巣状曲線」は、「光の弧」とも表現されます。
洞窟壁画には、「光の弧」の向こう側に半獣半人の精霊(あるいは変身したシャーマン)を描く図や、「光の弧」から動物が出て来るような絵があります。

C02CD325-969E-4079-A3C1-F22951235523.jpeg
*アフリカのサンの絵(洞窟の中の心)

16827441-2703-4B62-A02B-041C5E0945D0.jpg
*同上


一方、幻聴は、「ブーン」という蜂の飛ぶ音や、低い唸り声のような音です。
これらは、精霊の呼び声などと考えられることもあります。

部族の成人式のイニシエーションなどでは「うなり板(木)」という、ひもを付けて振り回すとブーンという音がする楽器が使われますが、これはこの幻聴を再現した音でしょう。

サン族は、「巣状曲線」の幻視とこの幻聴を合わせて、「蜂の巣」と考えます。
posted by morfo3 at 06:48| Comment(0) | イニシエーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年10月04日

シャーマンの秘密言語


ツングース、ラップ、ヤクートなどでは、シャーマンの「秘密言語」があって、シャーマンは、イニシエーションでその習得が必須のものとなっています。

シャーマンは、儀式などで、精霊との会話で使います。
トランスになって、精霊を呼び出す「パワー・ソング」で使われることもあります。

シャーマンは、「秘密言語」を先輩シャーマン、もしくは、精霊から直接、教えられます。

「秘密言語」は、動物の言語、特に鳥の言語であったり、それに由来するものであったりすることが多いようです。
イニシエーションの時、動物の声真似を習得する場合もあります。

ヘビなどの呪術的な動物を食べることで、鳥の言語を習得することができるとする場合もあります。

「秘密言語」が鳥の言語とつながりが深いことは、「秘密言語」が音楽とつながりが深いということでしょう。

また、ツングースでは、シャーマンはトランスの間、どんな言語でも理解できると信じられています。


中世ドイツの女性神秘家である、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンは、ヴィジョンの中で、人間の言葉とは違う天上の言葉を聞きました。
そして、彼女は、多くの聖歌を佐曲しましたが、その楽譜には、解読不可能な「知られざる言葉」も使われています。
彼女が聞き、使った言葉は、シャーマンの秘密言語と似たものでしょう。
posted by morfo3 at 07:07| Comment(0) | イニシエーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする