2020年11月04日

マヤ/トルテカのシャーマン的神話とコスモロジー

南北アメリカのネイティブな文化は、主に北アジアからやってきたモンゴロイドのシャーマニズム的文化をもとに発展しました。
中でも高度な古代文化を築いたのはメソアメリカと呼ばれるメキシコと中央アメリカのマヤ地方です。

マヤ/トルテカに代表されるメソアメリカの文明は、この地方の多くの都市の数千年に渡る交流の中で発展しましたが、南アメリカのインカのように統一的な帝国は生み出しませんでした。
主要な都市国家は、メキシコ湾岸のオルメカに始まり、メキシコ高原のテオティワカン、そして、ティカル、パレンケ、チチェン・イツァ、コパンといったマヤの諸都市、メキシコ高原のトルテカ、アステカと流れました。


マヤ/トルテカの宇宙像で、大地をささえるワニの体の中心から生命の樹でもある世界樹が生えています。
この世界樹は十字の形をしています。
世界樹は天球では天の河でもありました。

パンヤの木が世界樹、ピラミッドは人工的に作られた世界山で、天と冥界に通じていました。
天上世界は13層、地下世界は9層からなります。

体の中には、一種の生命の樹があります。
これをつたって体の中を昇降する霊的エネルギーは、「天の雫(体の稲妻)」と呼ばれます。
そして、体に3つの霊的センター(頭頂、心臓、肝臓)があると考えました。 インドや中国で発展した霊的生理学に近いものが、マヤ/トルテカにもあったのです。

マヤ/トルテカをはじめ、南北アメリカでは、主な、穀物は「トウモロコシ」、狩られる動物は「バッファーロー」、狩る動物であり夜の太陽、地下の象徴は「ジャガー」でした。
そして、時間と関係した原初の存在は「蛇」、太陽の鳥は「鷲」、解放をもたらす鳥は「ケツァル鳥」でした。
王は、シャーマン的な司祭であって神の化身でした。 また、司祭達は、精神的な成長によって第2の心臓と顔を作ることによって、太陽を養うことを目標とします。
第2の心臓は浄化された魂、第2の顔は浄化された人格を象徴するのでしょう。

マヤ/トルテカの世界観の中には、この不死への道が数多く象徴的に示されています。

その一つはマヤ/トルテカのコスモロジーの核心に位置する神聖暦「ツォルキン」の中にもあります。
この暦の1年は20×13=260日からなりますが、20の象徴体系は、人間が生まれてから不死性を獲得するまでの精神の遍歴を象徴します。

トルテカの神話における中心的存在は「ケツァルコアトル」です。

Quetzalcoatl_telleriano2.jpg

ケツァルコアトルは半神半獣半人の存在で、風鳥であり、水蛇(天と地の象徴)であり、金星神であり、生命の樹であり。そして、王=神官の理想の姿であり、その世襲名なのです。
緑青の翡翠とケツァル鳥が彼の象徴です。

ケツァルコアトルは、月の女神と太陽の息子として生まれ、人身御供を行わない優しい王=神官になりました。

ケツァルコアトルは、自然の気紛れな力を象徴するトリックスター的な神「テスカトリポカ」から様々な試練を受けました。
また、彼は、人間の魂を転化して作られたトウモロコシを盗みました。
そして、冥界に下って、地下の動物達に助けられて、父を遺骨から復活させ、鷲に乗って天に帰りました。

ですが、ケツァルコアトルは、悪者に酒を飲まされ、妹と近親相姦をしてしまい、自分を火葬し天に昇ります。
そして、心臓が金星(明けの明星)になります。
金星である彼は地下に下り、石棺に入って8日後に復活しました。
そして、いつか帰ってくると言い残して、蛇の筏に乗って異界へ去りました。
トウモロコシを盗む、動物の手助け、冥界下り、鷲との飛翔などは、シャーマン的な要素です。
ですが、彼が父を復活させたり、自身が復活したりして示した不死性は、単なるシャーマンではなく特別な英雄神の特徴です。

トルテカの宗教の実態は不明ですが、不死性を獲得したシャーマン的な英雄神を神官の目標とする、シャーマニズムの発展した思想を持っていたと推測できます。


また、マヤの有名な神話「ポポル・ヴフ」も、死と再生の試練を経て、不死性を獲得した双児の英雄神の物語です。

ケツァルコアトルや「ポポル・ヴフ」の神話には、天体や穀物の復活と重ねて、人間の精神の霊的成長が象徴的に語られているようです。

2020年11月02日

三星堆(長江文明)のシャーマン的コスモロジー

第5の古代文明と言われる南中国の長江文明は、麦作の4大文明と違って稲作の文明です。長江文明は黄河文明に負けない古さと規模を誇りました。

長江上流の「三星堆」文化は黄河地方の中原からは「屬」の国と呼ばれていました。
屬は殷と敵対し、周と共に殷を滅ぼしましたが、秦によって滅ぼされました。
三星堆文化は宗教的にも中国の文化に大きな影響を与えました。

後の時代に、長江系の文化は黄河系の文化に追いやられましたが、長江系の文化を継承する南中国の人達が弥生文化に大きな影響を与えたのではないかと推測されます。

屬のコスモロジーは考古学的な遺物と後世の南中国地方の神話の断片的な記述によって推測することしかできませんが、シャーマニズムと共通する部分、日本に影響を与えている部分をまとめます。


屬の宇宙像では、世界の中心には世界山の「昆崙山」と、世界柱の「建木」があり、ここから四方に4つの川(これが「四川」地方の由来です)が流れます。 典型的なシャーマニズムの宇宙像です。

「建木」は水に囲まれた九つの丘の近くにあり、2本の幹がねじれ合った縄のような姿をしています。
その頂きには人面鳥身の神人がいます。
この樹は神々やシャーマンが天地を昇降する時に使います。

「昆崙山」の山頂(洞窟)には「西王母」という大女神がいます。
彼女が屬の主神で、実際の国政でもその化身としてのシャーマン的な女王が君臨していました。

西王母は虎の牙と豹の尾を持った半人半獣の姿をしています。
また、西王母は4角の山羊の像を頭につけた杖を持っています。 彼女には、「動物の女主」としての側面があります。

さらに、彼女は、不死をも司りました。
屬には神仙思想の原型があって、西王母は仙人の頭領的存在だったのです。

また、彼女は機織り(養蚕)も司ります。

日本のマテラスオオミカミやシラヤマヒメにも、西王母の面影を見ることができます。


西王母には多くの部下達(眷属)がいます。
不死の霊薬を作る「玉兎」(月で餅をつくうさぎの原型です)と、それを助けるヒキガエル、「九尾狐」(日本にもやってきて、稲荷の白狐にも影響を与えました)、「三青鳥」、などです。

月は「玉兎」とヒキガエルに象徴されます。

一方、太陽は、太陽を運んで飛ぶ三本足の「金烏」(日本では熊野神社やサッカーのナショナル・チームのシンボルで知られます)、あるいは、イヌワシに象徴されます。

昆崙山の西には「湯谷(若水)」という湖(?)があってそこに巨樹の「扶桑(若木)」が生えています。
太陽は10個あり(十干のもとになった考え方です)、毎日一つずつ順に、この樹をつたって昇り、頂きにあるつぼみから生まれ出ます。
そして、太陽は毎日、最後に湯谷に浸かってからこの樹に戻ってそれぞれの枝で休みます。
「扶桑」は太陽樹なのです。

また、それぞれのつぼみの上には烏(イヌワシ)がいて、1羽だけは樹の頂きにとまっています。また、この樹をつたって額から鼻にかけて突き出た角を持った赤い龍が昇降します。
太陽の光は最初に「磐木(桃都樹)」という樹に差します。
そして、その上にとまっている「天鶏(蚊取り線香の金鳥の原型です)」が最初に鳴くと、それに答えて太陽を運ぶ金烏や地上の鶏が鳴きます。
また、この樹の根元には鬼門(冥界への入口)があり、そこには2人の神人がいて鬼(死者)を退治します。 「磐木」は第二の世界樹のような存在です。

地には偉大な祖先神の「燭龍(蚕叢)」がいます。
これは人面龍身で突き出た縦長の目を持つ赤い龍で、2匹の人面龍(息子?)を従えています。
燭龍が目をつむると夜になり、目をあけると昼になるなど、天体や気象を司ります。
燭龍か2匹の龍は、扶桑を昇降する龍かもしれません。

2020年10月30日

シャーマニズムとしての魔女宗

中世から近世のヨーロッパで注目され、誤解され、弾圧された「魔女(ウィッチ、ウィッカ)」の宗教は、「魔女宗(魔女術、ウィッチクラフト)」と呼ばれます。

ですが、「ウィッチ(witch)」という言葉には「妖術師」というニュアンスがあるのに対して、「ウィッカ(wicca)」は、「賢い女性」という意味で、ドイツでは「ヴァイズ・フラウ(weise frau)」と呼ばれます。
また、イタリア北東では「ベナンダンティ(良き道を行く人達)」とも呼ばれました。

「魔女宗」の正体は、キリスト教以前のケルトなどの宗教的儀式や呪術的医療などを受け継ぐものです。
そして、それは、アルタイやシベリアなどのシャーマニズムからの強い影響を受けたものなのです。
魔女は一種のシャーマン的存在だったのです。

キリスト教は「魔女宗」を「サタニズム(悪魔崇拝)」だとしましたが、実際は、「ペイガニズム(異教主義)」でした。


魔女宗の中心テーマは、豊穣な自然の循環・再生です。
トランス状態で地下冥界に行き、悪霊達と戦って穀物の種(穀霊)を持ち帰る、というユーラシア各地で見られるシャーマンの新年儀礼などに、魔女宗の原型的な姿を見ることができます。

ヨーロッパ中世には、男女別々の魔女の秘密結社がありました。
魔女の宗教のメンバーには、もちろん女性だけでなく男性もいました。

魔女達はベニテングダケや麦角などの幻覚性の飲食物をとったり、体に軟膏をぬったりして、シャーマンのようにトランス状態になりました。
魔女達はシャーマンと同様に、パワー・アニマル(スピリット・ヘルパー)に変身したり、それに乗ったりして霊的世界に飛びます。

女性の魔女は、猫(女神フレイヤに仕える動物)や兎に乗ることが多かったようですが、箒に乗って飛ぶことは、アルタイ/シベリアのシャーマンが、馬を模した棒に乗ることから来ています。

アルタイ/シベリアのシャーマンは、馬の霊に乗って天に駆け昇ることを、馬の毛や頭を模したものを先端につけた棒に乗ることで、象徴的にパフォーマンスしたのです。
魔女の箒は、これを出産の象徴でもある箒に替えたものです。
ですから、正しい箒の乗り方は、掃く部分を頭にして、柄に軟膏を塗るのです。


魔女達が行った行為は、地域によって差があります。
ヨーロッパの北方では、魔女は飛行する者というイメージが強く、個人主体で、男性重視、狩猟文化の影響が大きいものです。
一方、南方では、魔女は魔術師、占い師というイメージが強く、集団行動主体で、女性重視、農耕文化の影響が大きいものです。

女性の魔女は、ヨーロッパの西部では、女神(ディアーナ、ペルヒタ、ホルダ、フレイヤなどの各地の月神や豊穣神、地母神など)が動・植物を再生させるのを助けたり、悪い魔術師達が麦の芽を奪ったのを取り返したりしました。

一方、東部では、女神に付き添って巡り歩く旅を行いました。

男性の魔女は、オオカミに変身したり、地下世界に降りたりして、男神(主神や有角神など)が豊穣を害する悪魔達と戦うのを助けたりしました。
これが狼男(狼憑き)の本来の姿です。

また、男神が率いる死者の群れに関わる場合もあります。
これらの集団は、「狩猟」とか「軍勢」、「結社」などと呼ばれました。

ヴォータンのような天の主神が、嵐の夜に死霊の群れを引き連れて「狩り」をして暴れるといったゲルマンの死霊信仰があります。
一方、年末などに祖霊がやってきて、悪霊(死霊)を追い払い、年を更新して新年を祝う信仰があります。
死霊の群れは、シャーマンが戦い、導くべき存在のはずです。


このような魔女の集まりは、「サバト」と呼ばれましたが、この言葉のもともとの意味は、ユダヤ教の「安息日」、イタリア語では「土曜日」のことです。
「サバト」は、シャーマン的魔女達がトランス状態で、魂の世界で、もしくは、現実世界で集まって行うものでした。
これは、キリスト教以前の伝統的な農耕・狩猟儀礼と関連していますが、その秘儀的な部分です。

「サバト」には、一ヶ月毎に行うものと、一年の祝祭として4-8回行うものがありました。
ベナンダンティは、年に4回、悪い魔術師達(マランダンティ)と戦いました。