2020年11月12日

沖縄の池間島のコスモロジー

沖縄の池間島には、典型的なシャーマン的コスモロジーが伝えられています。
これは沖縄地方のコスモロジーの典型ではありませんが、驚くほどよくできた、素晴らしいコスモロジーです。

松居友「沖縄の宇宙像」を参照してこれを簡単に紹介します。

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<沖縄・久高島の宗教文化の成り立ち>

その前に、沖縄地方の久高島の宗教文化の成り立ちについて概説します。
久高島は、琉球列島の中央に位置し、近年に至るまで豊富な儀礼を残し、その研究もされてきました。
そのため、沖縄地方の典型的な宗教文化の成り立ちを知るために適しているのです。

久高島の宗教・儀礼は次のような3種類に分類できます。
この島の、そして、沖縄の宗教文化は、こういった複数の文化が複合したものだと言えます。

 (祭祀者) (祭神) 
1 ソールイ :竜宮神
2 ムトゥガミ:ニライカナイのムトゥ神
3 ノロ   :天上の祖神

1は、漁撈を行う男性の年齢階梯結社である「ソールイ(ソールイガナシー)」が、主に海底他界と考えられる竜宮の神を祀ります。
この神は、漁撈の神であり、蛇神です。
彼らは、竜宮(外洋)からの来訪神(マレビト)の祭祀を行います。

この祭祀は、八重山諸島のアカマタ・クロマタ祭祀などと同類のものです。
これらは、先オーストロネシア的な地中から始祖が出現したとする神話を持ち、芋類などの根菜栽培を行う、東南アジア系の文化であると考えられます。

2は、「ムトゥガミ」という男女の神職が、海上他界で死者の世界でもある「ニラーハラー(ニライカナイ)」の神「ムトゥ」を祀ります。
彼らは、「ニラーハラー」から来訪する「アカハンジャナシー」の祭祀を行います。

「ムトゥ」は「始祖家」という意味で、「ムトゥ」神は、島の創世の始祖神です。
この神は、兄・妹(あるいは夫婦)の2人の神で、氏族を守ります。

来訪神は神女(タマガエー)に憑依しますが、彼女達は、沖縄地方で「ユタ」と呼ばれる霊媒(憑依型シャーマン)です。

この祭祀は、沖縄本島の海神ウンジャミの祭祀と同類のものと考えられます。
これらは、海上他界と蛇霊信仰を持ち、漁撈を行う、南中国系の文化であると考えられます。

3は、女性神職の「ノロ」が、御嶽(ウタキ:沖縄の神社)で、天の神と、祖母霊を祀ります。
天の神は、沖縄地方では一般に「オボツ」の神と呼ばれ、一人の男性神、もしくは、7人の神とされます。

「ノロ」は、死後、「ニラーハラー」の神の承認を受けて、御嶽に守護霊として戻ると考えられています。
祖母霊というのは、先代のノロの霊です。

これらは、天の神が地上の聖地に常住する信仰を持ち、麦作を行う、北方系の文化であると考えられます。


「ノロ」の制度は、琉球王朝によって5世紀ほど前にもたらしたもので、階層的な組織になっています。
「ノロ」は、本島から派遣された「外間ノロ」が仕切り、島の祭祀を担います。

島のすべての主婦は、30-41歳になると「イザイホー」という儀式を経て女性神職である「神女(タマガエー)」になり、やがて「ノロ」に参加(池間ノロ)します。

主婦であるノロは、祖母の霊を祀り、家庭の祭祀を担います。

それとは別に、若くしてシャーマン病のような状態になった女性は、ユタの判断で、「ムトゥガミ」になり、氏族の祭祀を担います。

また、沖縄には、「オナリ信仰」というのがあって、これは妹が兄を守護するとする信仰です。
上記の3者の間では、「ノロ」が「ソールイ」の守護霊となるという関係で、「オナリ信仰」が表現されています。

*この項、主に吉成直樹「マレビトの文化史」を参照


<池間島の宇宙像>

池間島は、宮古島の北西にあるごく小さな島です。
この島の宗教文化も、上記のように複数の文化の複合を経験しているハズですが、それらが見事に統合されたシャーマン的な宇宙像を持っています。

世界は「天上」、中の国である「地上」、「ニッラ(ニライカナイ)」と呼ばれる祖霊(マウカン)のいる根の国である「地下」(地上と逆さまな世界)の3つからなります。

池間島の人々は北方シャーマニズムと同じく7を聖数にしていたためか、天球は7層で構成されています。
上から、太陽/月/北極星/オリオン座の3つ星/北斗七星/サソリ座/南斗六星に対応する天球です。
それぞれの天体が神でもあって、この7神が御嶽に祭られます。

(池間島の宇宙像)

天上
・太陽の男神
・月の女神
・北極星の女神ネノハンマティダ      :中央
・オリオン座3つ星の男神ナイカニ      :東
・北斗七星(天への舟)ウトゥユンバジュルク:北
・サソリ座の火の神ミサダメ        :西
・南斗六星の蛇神(ニッラへの舟)バカバウ :南
---------
地上(中の国)
・中央の柱ナカドゥラ神
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ニッラ(根の国)
・南極星の男神ウマノハノユーヌヌス

太陽神は男神で、月神は女性です。
両神は常に天を巡り、地上にはやってこないので、御嶽には座がありません。

池間島は地上の中心であり、北極星の間には軸があって、これを中心に天球と地が回ります。
オリオン、北斗、サソリ座、南斗はそれぞれ東、北、西、南に対応します。

天に昇って北極星の穴を抜けて天上に上がると、山や湖があって北極星の女神「ネノハンマティダ」がいます。
湖の水は生命の水で、女神は生命の水の女神でもあるのです。
北極星の女神は地上の生命の生死を司る最高神的存在です。
地上の御嶽には北極星の使者の神(小熊座?)がいます。

北斗七星は霊魂を天に運ぶ舟です。
北斗は北から東を回って天に昇ります。
この舟は、地上⇔北⇔東⇔天上 の間を航海します。

東を示すオリオンの3つ星は男神で、天への登り口である東を示します。
オリオンの3つ星は航海の神ですが、これは天上への航海でもあるのです。

天に昇る霊魂は北斗に乗って東から昇り、天の川を進みます。

西のサソリ座の神は火の神で、人の行ないを監視して天の神に報告する神です。
そして、ニッラへの降り口を示します。

南斗は生命力を与える蛇の神です。
そして、地下の国と地上を結ぶ舟でもあり、南極星の使者です。
この舟は、地上⇔西⇔南⇔ニッラ の間を航海します。

ニッラには男神である南極星の神「ウマノハノユーヌヌス」がいます。
この神はユーと呼ばれる生命力を地上に与えます。

ニッラは汚れた場所ではなく、生命力の基盤である「根の国」なのです。
ニッラには、西の水平線からではなく、海岸の洞窟などから降りていくこともできます。


<池間島の死生観>

人が誕生した時には、東にある井戸の水を浴びせ、亡くなった時は、西にある井戸の水を浴びせます。

一般の人は、死後、地下のニッラに行きます。
ニッラは祖霊がいる場所です。

墓は、死者にとってニッラに行くまでの仮の家とされます。
死者は、墓と生活空間を行き来しますが、この期間は、いわゆる殯(もがり)の期間で9日間です。

その期間が終わると、洗骨をし、骨は「祖先墓」に移されます。
そして、ニッラに行きますが、3ヶ月の移行期間は行き来をします。
その後に、祖霊となります。

ですが、一般の人と違って、シャーマンや王族のような一部の人間は、死後、天に行きます。


<池間島の祭儀>

池間島の大きな祭は、正月に相当する「サウガツ」、盆・収穫祭に相当する「ミャークヅツ」、立冬祭に相当する「ユークイ」です。
年末には祖霊や地下、地上(御嶽)の神々が天上に集まります。
この時、地上の人々の行ないが報告され、祖霊は人間の弁護をします。

これは、本土の神々が出雲に集う「神無月」に相当するでしょう。
本土の神々は出雲から西方の「常世」に行くのでしょう。

次に、元旦に天の神々によって1年の計画が決められ、7日にはその計画表を地上の神が持って戻ります。

次に、満月の15日の小正月には、地上に戻った祖神が、地上を訪れるので、感謝します。

これに対して、盆には天の神々や祖霊が地上に集まります。
そして、太陽神に収穫物が捧げられ、感謝されます。
立冬祭の「ユークイ」は太陽神の力を呼び戻し、来年の豊作を祈願する祭です。

シャーマン的な巫女である神女達の祈願によって、まず、南極星の男神が祖霊と共に生命力を持って南斗の舟で地上にやってきます。
本土で言う七福神の乗る「宝舟」です。

次に、南極星の男神や祖霊、そしてシャーマンのように脱魂した神女達は北斗の舟に乗り換えて天上にまで昇ります。
そして、太陽神と向かい合い、南極星の男神と北極星の女神は聖婚を行ないます。
これによって太陽神が喜び、復活します。

次に、南極星の男神や祖霊はニッラにまで戻って、生命力ユーを本格的に目覚めさせます。そして再度、地上にそれらをもたらしにやってきます。

*池間島の部分は、松居友「沖縄の宇宙像」を参照
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2020年11月11日

秘密結社と多段階イニシエーション

伝統的な部族社会で霊的な活動を担うのは、主にシャーマンか秘密結社のリーダー達、場合によっては、長老的存在です。
秘密結社のリーダ達やある種の長老になるためには、多段階のイニシエーションを通過する必要がある社会もあります。


<秘密結社>

世界の地域によって、霊的な活動を主にシャーマンが担う社会と、多数の秘密結社が担う社会があります。
例えば、西アフリカでは、多数の秘密結社が存在します。
ただ、すべての秘密結社が霊的な知識や技術を持つとは限りません。

多くの部族文化には秘密結社が存在し、それはごくありふれた存在です。
多数の秘密結社がある社会では、誰もが複数の結社に属します。

秘密結社の目的は、社会の中での特定の役割を果たすことであり、また、そのためにメンバーを守ることです。

秘密結社は、メンバー外の人間には、その活動、知識などを秘密にします。
メンバーそのものを秘密にする場合もあります。
狭義の「秘密結社」は、この意味の結社かもしれません。

また、秘密結社とそうでない集団には厳密な区別がない場合もあります。
その結社のメンバーを回りの者が知っていても、知らないふりをする社会もあります。


秘密結社の主な種類には、年齢的集団や職業集団、儀礼集団などがあります。

秘密結社には、歳をとって成長するにしたがって誰もが加入するタイプの集団と、自分の意志で加入するタイプの集団があります。

秘密結社には、同性で同年齢(あるいは近い年齢)の集団である「年齢集団」があります。
これには子供や成人、長老のように、もう少し幅の広い年齢的集団もあります。

父親や母親のような家族の役割に関わる結社もあります。

「長老集団」は部族の最高会議を構成しています。
長老達は多くの知識を持っていますが、相手が倫理的、知的に十分な資質を持っているかを慎重に判断してからしか何も教えません。

また、それぞれの職業に応じた「職業集団」があります。
特に「狩猟者」と「鍛冶屋」の集団は、見えない力をコントロールできる高い力を持っていると考えられて、尊敬されると共に恐れられました。

これら以外にも様々な儀式を司るような「秘密結社」と呼ばれる集団があります。
来訪神の儀礼、葬儀の儀礼、特別なイニシエーション儀礼などの集団です。

日本では、秋田のナマハゲや沖縄のアカマタ・クロマタのような来訪神の儀礼は、本来は秘密結社が担っていたものです。

米北西部のインディアンで有名な「アザラシ結社」が冬に行うイニシエーション儀礼は、「人食い怪物」に食べられる擬死再生儀礼で、これによって「人食い怪物」の性質を持った立派な人間になると考えます。
別のページで書いたように、これは夏に人間が動物を狩猟して食べて冥界に送ることと、ちょうど対称的です。


<秘密結社の社会の多重構造>

多数の秘密結社を持つ社会は、多重な組織構造からできている社会です。

また、社会によっては、昼と夜、光と闇、夏と冬、表と裏といった言葉に象徴されるような、双極的な構造を持った社会があります。
このような社会では、各人はそれぞれの組織に関わる2種のパーソナリティを持ちます。
例えば、北米のクワキウトゥル族など、北米には双極的な文化を持っている部族があって、冬に多数の秘密結社が活動します。

秘密結社にはリーダーがいますが、彼(彼女)は、単に1つの結社のリーダーでしかありません。
誰がリーダーであるかは、部外者には知られていないこともあります。

社会に複数の秘密結社があると、誰もが部族の知識の全体を知ることはできず、また、権力や尊敬を独占することができないようになっているのです。 こういった権力の分散は、部族社会の特徴です。

秘密結社は、イニシエーション(入社式・加入儀礼、入門儀礼)を持っていることが普通です。
中には、多段階の位階とイニシエーショを持っている場合もあります。
位階に応じて、知識や技術が開示され、教育がなされます。
ですが、こういった秘密結社の儀礼や技術についてはほとんど分かっていません。

おそらくアボリジニーがそうであるように、必ずしも秘密結社という形を取らずとも、多段階のイニシエーションを持つ文化もあります。
アボリジニーのある部族では、男性に十数段階のイニシエーションがあります。

「秘密結社」が持つ知識や技術には、物質的なものもあれば、霊的な力をコントロールしたり、特定の精霊や先祖とコミュニケートする能力などがあります。

西アフリカでは、秘密結社は具体的な知識だけでなく、それぞれが固有のダンスや音楽を持っています。
これらは見えない力のコントロールと関係しています。
このような部族の秘密結社のあり方、秘密主義と位階構造は、後の様々な神秘主義の団体に受け継がれました。
posted by morfo3 at 10:24| Comment(0) | 伝統文化のコスモロジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年11月10日

ライフサイクルと通過儀礼

<ライフサイクルと通過儀礼>

伝統的な文化では、人間(の魂)を大きなライフサイクル(生命循環)の中で考えます。
この世に誕生し、成長して成人し、成熟して長老になり、亡くなってあの世に行き、個性を脱して祖霊(祖神)になり、子孫を見守り、やがて子孫としてこの世に再生する、というサイクルです。

人(の魂)は、このライフサイクルを歩む中で、いくつもの違った身分(人格・神格)を経ていきます。
その身分を変化させる時々に、「通過儀礼(イニシエーション)」を経ます。

分かりやすい例では、成人式や結婚式、葬式などが「通過儀礼」です。

「通過儀礼」の意味は、古い人格(身分・地位)として死に、新しい人格として再生する「擬死再生」です。
その際に、あるいは、その条件として、必要な知識、能力を身に付けます。

「死」の体験は、様々な演劇的演出によってなされることが多くあります。
幻覚性の薬物を利用する場合もあります。


<4つのプロセス>

ライフサイクルは大きく4つのプロセス(期間)に分けることができます。

① 成長のプロセス :誕生→成人:この世での個別化
② 成熟のプロセス :成人→死 :この世での普遍化
③ 祖神化のプロセス:死→祖神 :あの世での普遍化
④ 祖神としての期間:祖神→誕生:あの世からの個別化

③④は、儀礼を主催するこの世の人間の側から見ると、③が供養、④が先祖祭になります。

ライフサイクルは、「この世(①②)」⇔「あの世(③④)」の循環です。

誕生には「受胎→出産」という中間段階があります。
死にも「葬儀→埋葬」という「中有」とか「もがり」と呼ばれる中間段階があります。

また、ライフサイクルは、「普遍化(②③)」⇔「個別化(④①)」という循環でもあります。

人は誕生後、個性化・個別化して、その極である成人に至ります。

成人した人は、個人を超えて、成熟の道を歩みます。
死は普遍化の道であり、死後の魂もその道を歩み、祖神という普遍化の極に至ります。
そして、祖神の分霊として、再度、個人が再誕します。


各プロセスには、細かくいくつものプロセス(身分と通過儀礼)があります。

少し前の日本の例では…

① 成長のプロセス

誕生(受胎→出産)→名付祝→初宮詣→七五三(子供組加入)→十三参り→成人式(若衆組加入)→結婚・就職

この成人になるには、社会的な知識、合理的な智恵、生活力が必要です。


② 成熟のプロセス

隠居→年祝(還暦→古稀→喜寿→傘寿→米寿…)・年寄(長老)

子供が独立すると隠居になりましたが、これは年齢的にはかなり若い時(40才前くらい)、になります。
他にも、念仏講や庚申講に参加したり、受戒を受けたり、死に備えた段階があります。

成熟には、社会的な調停能力、社会的価値観を相対化する視点、利他精神、無意識の創造力の受容が必要です。


③ 祖神化のプロセス

葬儀(死霊化)→埋葬(精霊化)→年忌法要(祖霊化)→弔い上げ(祖神・氏神化) 

祖霊・祖神であれ、浄土に行くホトケであれ、それが普遍的な方向に浄化された魂であることに変わりはありません。
亡くなった人の魂が、悪霊にならずに、この正しい方向に進むようにするのが、葬送と供養の目的です。

水子や幼児の段階で亡くなった場合のように、①②を経ていない魂は、死後に③に進まず、再度、生まれなおすことが望まれます。


④ 祖神の期間

プロセスはありませんが、祖神(祖霊)として子孫を守ります。
祖神(祖霊)は、一般的な氏神の祭り、盆・正月など、定期的にこの世を訪れ、子孫に生命力を与えます。


人はライフサイクルの中で、身分に沿って名前を変えることが一般的でした。
日本人の場合だと、幼名→少年名→家長名→隠居名→戒名・氏神名 といった感じです。
子供には亡くなった祖父母の名を付けることもあります。
独立すると、父から代々の家長としての名を受け継ぎ、父は隠居して祖父から代々の隠居名を受け継ぐ習慣がありました。


<成人儀礼>

成人儀礼の本質は、この世の創造の母体としての他界(=死)と対面して、人格を成長させることでした。

最も原初的な成人儀礼は、洞窟か森の中の儀礼用の小屋で行いました。
洞窟は他界であり、地母神の子宮であり、洞窟から出ることで、新しい人格として再生します。
森も他界であり、小屋は怪物(聖獣)であり、怪物に飲まれ、吐き出されることで再生します。

鯨に飲み込まれたピノキオや、狼に飲み込まれた赤頭巾ちゃんの童話には、原初的な成人式の姿が残っています。
森の中の小屋も、童話の定番です。

他にも、成人儀礼が変形された童話としては、異界に行って、何かを手に入れる(ジャックと豆の木…)とか、何かをやっつける(ヘンデルとグレーテル、一寸法師…)といった形が見られます。

異界に行って戻ることは死と再生の象徴です。
何かを手に入れたり、やっつけたりすることは智恵を獲得する象徴です。

ジブリ作品には成人儀礼の物語が多くあります。
「千と千尋の神隠し」、「となりのトトロ」、「崖の上のポニョ」などは、成女儀礼の物語です。
特に「千と千尋の神隠し」は典型的で、トンネルを通った先の他界の家でグレードマザーと対面し、試練を受ける話です。

部族社会での成人儀礼では、再生時に、その部族の基礎的な宇宙観を教えられます。

多くの場合、知識は神話の伝授として、試練は神話上の英雄の行為の追体験として行われます。
成人が理解し獲得すべき「文化」は、神話では「文化英雄」と呼ばれる存在や、氏族の「始祖」がもたらしたものです。


<成熟儀礼>

多くの神話では「文化(智恵)の獲得」は同時に「死の発生」、「楽園喪失」でもあったと語られます。
合理的な理性や文化の獲得には、永遠性を喪失するという負の面があるわけです。

神話によっては、文化をもたらした英雄が、その後、再度、「不死の獲得」に向けて旅立ちます。
成人後の「成熟の儀礼」の原型をここに見ることができます。

部族によって様々ですが、アボリジニーなどでは、成人の後にも、年齢に沿って何度も「通過儀礼」を行う部族があります。
また、部族内の秘密結社が多数の位階を持ち、位階を昇るごとに「通過儀礼」を行う場合もあります。

「通過儀礼」では、成熟するにつれてより深く潜在意識の智恵を獲得することが求められます。

成熟のプロセスは、心理的に言えば、心の内面に尽きることのない創造力を見出して、人格を成長させることです。
神話的には「若返りの水」「生命の木の実」の獲得などとしても語られます。

シャーマンの「通過儀礼」は、成熟の儀礼のモデルになります。
普通の「成人儀礼」とは異なり、深い自我の解体と霊的知識の獲得が必要とされます。

また、死を前にした人が、死を受け入れ、人生観を新たにし、人格を変容させること(スピリチュアルワーク)は、生前での最後の通過儀礼です。

少年少女を主人公にした童話には「成人儀礼」を元にしたものが多いのですが、老人を主人公にした昔話には成熟を示すものがあります。

昔話では、通常の生活上の判断を否定して利他的な行動をとると、意図せずして富を得るという形になります。
品物を売らずにあげる(笠地蔵)、動物を捕まえずに助けるなどです。

「花咲爺さん」では、犬が何度も意地悪爺さんに殺されながらも、犬→木→臼→灰→桜とメタモルフォーゼを繰り返し、潜在意識や自然の持つ不死なる創造性をこれでもかと示します。
犬が経る死と再生の一回一回が、成熟に向けた通過儀礼のようにも思えます。

ジブリ作品だと、「風の谷のナウシカ」、「もののけ姫」、「ゲド戦記」、「ハウルの動く城」などは「成熟の物語」でしょう。
いずれも、人間の利己的な行為によって、自然=無意識が創造性を失っている状態から物語が始まります。
特に「風の谷のナウシカ」は典型的で、自然=無意識を再生させる偉大なシャーマンになる話です。


<供養>

供養は、主に③のプロセスを歩む死者の「通過儀礼」として行います。
ですが、これを主催し、参加するのは、この世の①②の段階にいる生者です。

供養は、それを行う側の人間にとっても、一種の「通過儀礼」と同様の意味を持ちます。
肉親の供養は、死と対面する機会であり、成長の機会でもあるからです。

また、死者は目指すべき人格モデルでもあり、潜在意識の中の人格でもあり、それとの対話は無意識との対話を通した人格変容でもあります。

「祖霊」や「ホトケ」は古い表現ですが、今風に「心の奥底の声」とか「本当の自分」とで表現することも可能です。
死者との対話の中で、死者の人格は徐々に普遍化していき、それに応じて、生者の人格も普遍化をうながされます。
posted by morfo3 at 06:00| Comment(0) | 伝統文化のコスモロジー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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